こんばんは、MSKラヂオ 〜書評編〜 のお時間です。
前回の書評記事!
今回は実用的な本ではなく、カズオイシグロ氏によって書かれた長編小説である「わたしを離さないで」を読んでの書評です。
途中からネタバレがあるので、苦手な人は避けるようお願いします。
あらすじ
1990年代末のイギリスで提供者達の世話をする31歳の介護人であるキャシーは、提供者達の世話をしつつ自分の育ったヘールシャムにある施設で暮らした奇妙な少女時代や卒業後を回想し、自分達の秘密を紐解いていく。
過去の回想とともに、作品の世界観や登場人物たちの置かれている状況がわかっていく流れで物語は進みます。
ただ、この作品では世界観やキャラクターの置かれた状況をあまり隠す気は無く、淡々と真実が書かれていくので、物語としての世界観は早々に理解できてしまうでしょう。
作品の魅力
作品の魅力となるのは隠された世界観などでは無く、そう言った世界において主人公たちはどう生きていくのかという点であると思います。
また、作品が全体的にエモーショナルであり、情緒的な雰囲気が好きな人にとってはたまらない魅力となるでしょう。
※以下ネタバレ!!
※以下ネタバレ!!
物語の真相
この物語において、社会では臓器提供が当たり前となっており、主人公を筆頭とする施設育ちの登場人物は臓器提供のために生み出されたクローンです。
彼らは提供者と呼ばれ、臓器提供をし終えた後に使命を果たしたと称されます(死亡することです)。
クローンとはいえ感情を持つ人間である主人公たちに救いの手を差し伸べようと活動していた施設がヘールシャムでした。ヘールシャムでの生活を描いた部分は一見私たちの学校生活と似ているように思えますが、よくみると全くの別物です。しかし、ヘールシャムはかなり恵まれた環境であり、ほかの施設で育てられた提供者たちは、かなり悲惨な環境で扱われていたと言います。
ヘールシャムで保護官という立場で登場していたエミリ先生やマダムは、提供者の扱いを改善するために動いていた人物でした。
しかし、提供者の立場を改善する運動も志半ばで途絶えてしまい、キャシーたちが大人になった後にはヘールシャムそのものがなくなってしまいます。
キャシーたちは提供までの猶予期間をもらえるという噂を確かめるべくマダムに会いに行きましたが、得られた返答はエミリ先生やマダムの活動の実態についてと猶予期間はないということでした。
物語を終えて感じたこと
ヘールシャムの存在した功績? マダムとエミリ先生の運動
ヘールシャムのおかげで、提供者として育つ子供達はかなりまともな教育を受けることができました。これ自体は素晴らしいことだと思います。
しかし、その教育の陰には、いつか必ず知ってしまう残酷な現実を隠蔽する節が見受けられます。
ヘールシャムは、マダムとエミリ先生の運動おかげで一見良い環境のように見えますが、その実態はかなり歪なものに見えました。いつか必ず綻びを見せる世界。危うさが常に感じ取れる雰囲気を読み取れます。
小説を最後まで読むと、マダムやエミリ先生は提供者の立場改善運動を行なっていた良い人物たちに見えるかもしれませんが、「私たちは頑張ったし、その自負がある」というような旨の発言が多々あり複雑に思えます。
何もしないよりは遥かに良いと思う一方、結局提供者として生を終えるキャシーたちの姿を見ると切なさと残酷さを感じられずにはいられません。
いつか来る未来
この話を読んで怖かったことがあります。
それは、クローンを生み出すことで臓器提供を確実のものにしようという世界が、いつかやってきてしまうのではないかということです。
提供者として育ったキャシーたちには感情がありました。読んでいる僕たちも感情移入を余儀無くされ、そんなのひどいと感じることができます。
しかし、ある日突然不治の病にかかった僕が「完璧な臓器移植のためにあなたのクローンを用意しました。臓器移植をしますか?もちろんクローンは臓器提供のために存在しているものであって、感情などのないものです。」と言われたとします。
僕はまだ若く、死にたくはないし、問題のクローンに感情はありません。
そんな状況で臓器移植を拒めるかどうかがわかりません。
作中にあった、一度便利なものを手に入れると手放せなくなるという旨の発言は胸に刺さるものがありました。
まとめ
「わたしを離さないで」を読んだことで、僕はかなり複雑な気持ちになりました。
感情のあるクローンを臓器提供だけのために生み出す残酷さと、それを知ってなお性を彷徨うクローンたちの切なさ。
倫理的に問題があるとはいえ、提供者からの臓器移植を受けることを拒むことのない人たち。また、その気持ちを全くわからないでもない僕自身。
心をゆっくりと、着実に動かして来る作品です。
機会があれば是非手にとって見てください。
MSKラヂオ 〜書評編〜 第5弾です↓
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